御菓子処 丸寿(まるす)は、近隣のお客様を大切にされている、地域密着の和菓子屋さんです。
地元で有名な大庭城最中も、お店でのみ買い求めることができます。
お話しをお聞かせいただいたのは、丸寿3代目のご主人 岡崎秀一さん。
webmagazine azuki の広報活動の一環として、藤沢市産業フェスタであんこの試食をだしていたとき、岡崎さんと出会ったのが取材のきっかけでした。
岡崎さんが和田の試食を一口召し上がっただけで、素人のあんこの作り方の手順、砂糖の量、砂糖を入れるタイミングまで 、バチリと言い当てられたのです。
菓子店を営まれているプロはほんとに違うと、あたりまえのことに、すごく感嘆しました。
ぜひ、丸寿さんのあんこの作り方や和菓子のこと教えて下さい、ということで、取材にお時間いただきました。
岡崎秀一さんが、菓子に目が向くようになったきっかけ
生家が菓子店の岡崎さんは、ものごころついたときから、 甘いものに囲まれていました。
それゆえ、いまでもほんとは、甘いものが苦手だそうです。
和菓子の世界にすすむことを決めたのは、高校生のとき。
それまで、デザインで食べてゆこうと考えていたけれど、上生菓子でも、新作菓子でも、和菓子でデザインか追及できると、将来を決めたそうです。
和菓子店は絶滅危惧種なんですよと笑ってお話しになる岡崎さんは、絶滅せずに生き残る道を、甘いものが好きでない自分だからこそ切り開いてゆけるのではと考え、本物のおいしさとはなにかをずっと追求してこられたそうです。
看板メニューのリニューアル
2代目が創作したもとの大庭城最中は、いまとは形がぜんぜん違うものでした。
丸い皮につつまれた最中だったそうです。
「看板メニューなのに、普通の最中にみえるんだよなあ」と岡崎さんがおもっていたとき、最中の種屋さんの現在のご主人との偶然の出会いがありました。
いつもは、小田原にまで最中の皮をとりにゆくところ、そのときたまたま、家を出てしまっていた息子さん(現在のご主人)が配達に来てくださって、話し込んでゆかれたときがあったのだそうです。
あれよあれよといううちに、最中の種屋 さんを、そのとき話し込んだ息子さんが継ぐことになり、よし、絶滅危惧種同士、本物の、そして安心の、おいしい菓子づくりを追求しようと、歳も近かったこともあり意気投合。
最中の皮の老舗に一緒に見学に行ったり、最中の皮の原材料であるもち米農家を一緒にまわったりと、専門家同士のチーム戦だったそうです。
また、とろける皮にあう餡づくりを工夫もすすめられました。
こうして、材料選びから、製造工程も含めた改革が実を結び、大庭城最中が現在のお城の形に大きくリニューアルしたのだそうです。
最中の餡も、粒がしっかりのこる餡になりました。
丸寿の大庭城最中は、厳選したもち米だけを使用した口のなかでとろける最中の皮が、中のあんとしっとり馴染む味が特徴です。
出来てから1日ぐらいたったときが、いちばんおすすめの食べごろだそうです。
自分の身体も欲すものを
華やかな新作菓子が目にとびとんでくる丸寿さんですが、定番菓子のリニューアルのほうが数倍大切と岡崎さんはお話しになります。
定番菓子の見直しはほんとうに地味で、目立たない作業です。
ここ近年で、わかりやすい大きな材料変更として、小麦粉と、膨張剤の2つをあげておられます。
小麦粉は、すべて国内産の、とくに栃木の小麦粉だけを使用することに変更。
膨張剤は、アルミニウムフリーのものに切り替え。
実は、岡崎さん、小麦粉アレルギーがあるのだそうです。
いままでどうしようもないとおもっていた症状が、取り扱う小麦粉を国内産に切り替えたら、工房での作業がすごく楽になったのだそうです。
それ以降、材料選びのときに、とびちった粉の空気を吸うだけで「この小麦粉は外国産」と、わかるまでになったとか。
甘いものが嫌いとか、アレルギーとか、自分の身体で、まるで人体実験してるみたいですと、岡崎さんはわらっておられました。
和菓子の世界をひろげる工夫
さらに、岡崎さんは、和菓子屋さんが絶滅危惧種から脱するために、和菓子界に2つのことが当たり前になるようにしていきたいとお話しになられていました。
ひとつは、和菓子作りの職人さんの育成に、理論と数値を取り入れること。
定番菓子の見直しが大切と先にも岡崎さんおはなしになられていました。
見直しの作業は、材料配合かもしれません。
もっと地味な、作り方のほんのすこしの工夫かもしれません。
毎日、毎日、その工夫のひとつひとつを、岡崎さんは、細かくメモにとっておられます。
メモが繰り返しつかわれて、洗練されていくと、ノートにまとめられ、そしてさらに、パソコンでレシピとして整備して出力・保管されるという過程を地道につみかさねておられます。
まとめられたレシピは、店のなかではだれがみても、いまのレシピがすぐわかるように公開しておれらます。
店の隣に併設されている和菓子工房にお客様がこられると、驚かれるそうです。
たいていの和菓子屋さんなら、ふつう公開されない、和菓子の数々のレシピが、こまかな材料の配合とともに張り出してあるからです。
見て覚えろという昔ながらの勘や経験にたよった教え方では、新しく入ってこられる職人さんも、自分はどれだけ成長したかわかりにくいといいます。
でも、いろんなものが数値化されていたら、自分はなにが出来て、何がまだ足りないか、一目でわかるので、成長意欲を燃やしやすい環境にいつづけることができます。
そうすることで、育成・成長のスピードも早めることも可能になり、後継者育成に困っている菓子業界の衰退にも歯止めをかけることにも役立つと考えておられました。
もうひとつ岡崎さんがされている工夫は、和菓子屋自身が、自社自慢をもっとすることだそうです。
たとえば、丸寿は、安心安全な無添加の手づくり和菓子を提供しています。
でも、岡崎さんに言わせれば、地域密着の営業をしてい和菓子屋さんなら、無添加の手作り和菓子、材料を吟味し続ける和菓子作りは、どの店にとってもあまりにも当たり前すぎることなのだそうです。
でもその和菓子店の真面目な取り組みや工夫を、「もっと情報発信したほうがいい」と、岡崎さんが声をあげると、「そんな当たり前なことをなぜいわなければならない、お客様はみなさんちゃんとご存じだ」という声がまだまだ聞こえるのだそうです。
お子さんのアレルギーで、悩んでおられるお母さんがおおいです。
そんななかで、保存料などが使われていない菓子が身近に売られていることを、もっと多くのお母さんが知ったら、救われる方がもっと増えるのではと、和田もおもいました。
笑顔同封
御菓子処 丸寿は、戦後まもないときに創業され、以来70年を超え営業されています。
菓子創作のコンセプトは、季菓彩心。
「季節のお菓子が心を彩る」という想いが込められています。
もうひとつ、あまり表にだしていない、お店のコンセプトがあるそうです。
それは「笑顔同封」。
菓子の包みを開けたときに笑顔になってほしい。
いつもの生活に、うるおいが増える笑顔を届けたい。
わたしも、看板菓子の、大庭城最中を、おやつの時間にいただきました。
すっととける最中の皮にまとめられた大粒小豆のまあるいやさしい味が、くちの中にひろがりました。
笑顔同封は、菓子も作り、店にも立っておられる、岡崎さんの優しい笑顔がそのままつつまれているような味でした。
藤沢市は、2020年東京オリンピックで、セーリング競技が江の島近くの会場で開催される地です。
丸寿さんへのアクセスは、JR辻堂駅から徒歩20分ほど北に歩いたところにあります。
肝腎な、丸寿さんのあんこの作り方紹介の記事は、その2に譲ります。つづきをご覧ください。
御菓子処 丸寿
(運営 有限会社丸寿菓子店)
神奈川県藤沢市羽鳥3-20-9
tel.0466-36-7938
http://www.shonan-sh.jp/shop/marusu