あんばんが好きです。
僕が、はじめてあんぱんを食べたのは、いまからおよそ20年前のことです。
日本人のまみこさんとロンドンでお付き合いしていて、日本にいるまみこさんのお義母さんに、パートナーとしてご挨拶にあがったときのことでした。
まみこさんのお義母さんは、日本語も話せない、日本の食べ物のこともよく知らない男に、娘を嫁がせるのはとても不安で心配だったと思います。
そんななか、お義母さんがおもてなしくださった最後に、あんぱんがでてきました。
お義母さんは、僕があんこの食べ方をしっていたことが、とても印象深かったそうです。
あんぱんを食べることができたことで、イギリス人の僕も、日本人のお義母さんとつながることができたと感じています。
あの大切な場面で、僕が育った環境ではまったく奇妙な色のお菓子を、うん大丈夫、と、食べることができたのは、僕の大切な友人のおかげです。
それは、まみこさんと知り合うよりも、さらに数年前のことです。
学会で初めて日本を訪れたとき、僕の友人でありメンターが、家庭料理でもてなしてくれました。
すしや、さしみ、てんぷらなど、知っている日本料理で歓待してくれたあと、奥さんが、ちょっと待っててねと、キッチンの奥から、見知らぬ変わった食べ物を運んできてくれたのです。
それは、濃い赤紫色の、どちらかというと黒っぽいもので、形は四角いものでした。
初めて見るものでした。
これを、細い棒切れで、小さく切って食べると教わりました。
色も形も、僕には、とっても奇妙な食べ物に見えました。
とまどいました。
でも、教わったとおり、棒で切って、小さいかけらを口に入れてみました。
ほんのりと甘い味でした。
さらっとした口あたりでした。
うん、まあ、大丈夫、僕も食べることができる、というのがそのときの感想でした。
いまでは、僕のなかであんぱんは、イギリスの伝統菓子プディングや、タルトタタンと並んで、好きな菓子になっています。
パンと小豆餡だけというスッキリさらりとした味わいで、二日酔いのあとでも胃にもたれない軽い甘さと風味が気に入っています。
メンターにみちびかれ小豆菓子を体験したおかげで、僕はまみこさんのお義母さんとつながることができ、そしていま、まみこさんと一緒に過ごす時間を持つことができています。
59歳 医師 ロンドン在住イギリス人の男性
2016年10月11日 神奈川県相模原市内にてインタビュー
撮影執筆 和田美香