日本で最古の歴史書「古事記」にも、またそのあと奈良時代(8世紀)に成立した「日本書記」にも、小豆が登場します。
これらに共通するのは、死と再生の神話をとおして、穀物の起源をあらわしているなかに、小豆も登場している点です。
『古事記』を例にみてみましょう。
古事記 上つ巻
天照大神(アマタテラスノオオミカミ)と須佐之男命(スサノオノミコト)
5 五穀の起源
また食物を大気津比売神(オオゲツヒメノカミ)に乞ひき。ここに大気津比売、鼻口また尻より、種種の味物を取り出して、種種作り具へて進る時に、須佐之男命、その態を立ち伺ひて、穢汚して奉進るとおもひて、すなわちその大気津比売神を殺しき。故、殺さえし神の身に生れる物は、頭に蠶生り、二つの目に稲種生り、二つの耳に粟生り、鼻に小豆生り、陰に麦なり、尻に大豆生りき。故ここに神産巣日の御祖命(カミムスヒノミオヤノミコト)、これを取らしめて、種と成しき。
(出典『古事記』倉野憲司校注、岩波文庫、38頁。)
高天原から追放された暴れん坊の神様、スサノオノミコトが空腹を抱えて困っていたときに、オオゲツヒメという女神に会います。
オオゲツヒメが鼻や尻から差し出した食べ物を、汚いものと勘違いしたスサノオノミコトは、ヒメを斬り殺してしまいます。
そのヒメの亡骸から芽生えたのが稲、粟(あわ)、小豆、麦、大豆、つまり五穀でした。
『古事記』も『日本書記』も、排泄物から食物を生み出す神を殺すことで、食物の種が生まれたとする点が共通しています。
穀物は、死と再生の象徴でもあるのですね。
そして、神話に登場する穀物の起源に、小豆がすでに含まれていることから、すでにこのころ日本列島の近畿地方では、小豆が穀物として栽培されていたのが伺え、わたしたちの風土に根付いた穀物ということがわかります。